5-1 圧力損失とエネルギー損失の指標

簡易ベルヌーイ式 4v² は、何を数えていないのか

4v² の 4 は ½ρ を mmHg に直した係数です。この式が見ているのは狭窄部までの落差で、その先で戻ってくる分は差し引かれていません。

大動脈弁狭窄の評価に使われる簡易ベルヌーイ式は、ΔP = 4v² という形をしています。v は最大流速(m/s)、ΔP は圧較差(mmHg)です。

簡易ベルヌーイ式の係数 4 の導出

この 4 は経験的な係数ではありません。ベルヌーイの式の動圧項 ½ρv² を mmHg に換算した結果です。

血液の密度を 1060 kg/m³、1 mmHg を 133.3 Pa とすると、

½ × 1060 × v² ÷ 133.3 ≒ 3.98 v²

これを 4 に丸めたものです。つまり 簡易ベルヌーイ式は、運動エネルギーの増加分がそのまま圧力の低下分になる、という理想化された関係を式にしたものです。

粘性散逸と圧力回復

理想化のために落ちているものが二つあります。

ひとつは粘性による散逸です。流体が変形するときに熱として失われる分です。

もうひとつが圧力回復です。狭窄部を過ぎて流れが広がると、速度が落ちる代わりに圧力が戻ります。心室にかかっている実際の負荷は、戻らなかった分——非可逆圧力損失——だけです。

下の図で確かめてください。狭窄部の面積比と上流の流速を変えると、「4v² が見る落差」と「実際に残る落差」が別々に動きます。

狭窄部を通る圧力の変化。赤線が圧力、青帯が回復した分。4v² は上流からのどまでの落差を見ており、下流で戻る分は差し引かれていない。急拡大の理想化した1次元模型で、乱れの散逸や壁の摩擦は含まない。

触ってみると分かることがあります。

狭窄が軽いほど、過大評価の倍率は大きくなります。 面積比を 0.5 付近にすると、4v² は実際に残る落差の4倍近くを示します。逆に面積比を 0.1 まで絞ると、倍率は 1.2 程度まで下がります。強い狭窄では回復する余地が小さいからです。

つまり、簡易ベルヌーイ式が最も外すのは軽度から中等度の狭窄ということになります。重症判定が問題になるのはまさにその領域です。

CFD による真値との比較

Casas らは CFD で真値が分かる条件を作り1、そこに MRI 計測を模擬して各手法を当てました。真の非可逆圧較差 6.76±0.54 mmHg に対し、簡易ベルヌーイは 8.74±0.67 mmHg でした。図で見た過大評価が、数値としてもそのまま出ています。

上流の流速を考慮に入れた拡張ベルヌーイでは 6.57±0.53 mmHg まで近づきます。式を一段だけ丁寧にするだけでも、かなりの部分が回収できるということです。

非可逆圧力損失の測定に必要な条件

ここから要求が二つ出ます。

戻らなかった分だけを測りたい、という要求です。 圧力回復を差し引いた非可逆な損失だけを取り出したい、ということです。

1点の最大流速ではなく、流速場全体を使いたい、という要求です。 最大流速1点では、どこでどれだけ失われたかが分かりません。

3次元の速度場が得られるなら、この二つはいずれも計算として可能です。まず 5-2次の記事で失われる場所そのものを確かめ、そのうえで三つの手法を順に読みます。5-4乱れのエネルギーとして数える方法、5-5粘性散逸として数える方法、そして 5-6圧力そのものを再構成する方法です。

この記事で出てきた言葉

簡易ベルヌーイ式
最大流速から圧較差を推定する式 ΔP = 4v²。粘性による散逸と狭窄後の圧力回復を数えないため、負荷を過大に評価しうる。
圧力回復
狭窄部を過ぎて流れが広がるとき、運動エネルギーの一部が圧力として戻る現象。心室に残る負荷は戻らなかった分だけ。
非可逆圧力損失
乱れや粘性によって熱に変わり、圧力として戻ってこない分。心室にかかる実際の負荷に対応する。

引用文献(1 本)

  1. 1

    Casas B, Lantz J, Dyverfeldt P ほか. 4D Flow MRI-Based Pressure Loss Estimation in Stenotic Flows: Evaluation Using Numerical Simulations. Magnetic Resonance in Medicine. 2016.↩

    簡易ベルヌーイは 8.74 対 6.76 mmHg で過大 拡張式が真値に最も近く

ここで答えていない問い

  • 戻ってこない分だけを、流速場から直接測れるのか。

第5章「圧力損失とエネルギー損失の指標」より 最終更新 2026-09-07