5-4 圧力損失とエネルギー損失の指標
乱流運動エネルギー(TKE)による圧力損失の評価
TKE は乱流の速度変動が持つ運動エネルギーで、その散逸を通じて非可逆な圧力損失に寄与します。上行大動脈のピーク総 TKE は圧力損失指数と R²=0.91 で相関しました。ただし侵襲的な基準が得られたのは1例のみです。
狭窄を過ぎた流れには乱流の速度変動が生じます。この変動は運動エネルギーを持ち、そのエネルギーは粘性によって最終的に熱に散ります。散った分は戻ってきません。
乱流運動エネルギー(TKE)は、この速度変動に蓄えられた運動エネルギーを表す量です。 非可逆な圧力損失と同じ量ではありません。TKE が後から散逸することを通じて損失に寄与する、という関係です。したがって TKE は、乱流に伴うエネルギー損失と圧力損失の指標として検討されています。2015年の合意声明1も、TKE を乱流に関連する損失の推定として位置づけています。
4-4第4章で見たように、乱流運動エネルギー(TKE)2はボクセル内の速度のばらつきとして測れて、空間微分を含みません。これを圧力損失の代わりに使えないか、という発想になります。
大動脈弁狭窄での検証
大動脈弁狭窄を対象にした TKE の研究3は、上行大動脈のピーク総 TKE と圧力損失指数を比べ、R² = 0.91 という強い相関を得ました。回帰式まで示されています。
値の桁は、狭窄患者で 3〜52 mJ、健常で 3 mJ 未満 です。10倍以上の開きがあり、群間差としては明瞭です。
5-1簡易ベルヌーイ式は最大流速1点だけを使い、狭窄後の圧力回復を数えません。この手法はその仮定を置かずに、失われたエネルギーの側から直接測っている——そこが原理的な違いです。
TKE の侵襲的基準による検証の水準
ただし採用を判断するには、検証の水準を見る必要があります。
この研究で真の基準となる侵襲的な圧測定が得られたのは、1例のみです。 相関の相手は圧力損失指数という別の非侵襲指標で、それ自体が推定値です。
R² = 0.91 という数字だけを見て「検証済み」と読むと、水準を見誤ります。この論文は、指標として採用するかを判断する材料として読むのが妥当です。
頸動脈狭窄での multi-VENC による TKE 評価
同じ発想は他の部位でも試みられています。multi-VENC 4D Flow による頸動脈狭窄の TKE 評価4では、VENC を 33/100/300 cm/s の3段構えにし、1.0 mm³ 等方・撮像約10分という条件で撮りました。
VENC を多段にするのは、第4章で見た交換条件5を回避する試みです。速い流れに合わせると遅い流れの精度が落ちるので、複数の設定で撮って合成します。この数値の組み合わせは、プロトコル検討の出発点にそのまま使えます。
結果は、TKE が狭窄群 391.5 µJ 対 非狭窄群 254.4 µJ でした。ただし重要なのは次の点です。NASCET 狭窄率との相関は r = 0.309 と弱く、内膜中膜厚(r = 0.543)やピーク流速(r = 0.462)のほうが強く相関しました。
つまり TKE は狭窄率の代用にはなりません。プラークの不安定性(視覚スケールと r = 0.392)に寄る別の情報を見ている指標として位置づけるのが妥当です。なお、単一 VENC との直接比較は示されていないため、多段化による利得は定量化されていません。
粘性散逸による評価
乱れとして失われる分は測れました。しかし失われ方は乱れだけではありません。5-5次の記事で、粘性による散逸を直接積分する方向を見ます。
引用文献(5 本)
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- 3
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ここで答えていない問い
- 乱れではなく、粘性による散逸を直接測ることはできるのか。
第5章「圧力損失とエネルギー損失の指標」より 最終更新 2026-09-07