4-3 速度場を得る三つの計測・解析手法

臨床指標と研究用指標の区分

流量・逆流分画・ピーク流速・Qp/Qs は臨床応用として推奨されています。WSS・脈波伝播速度・TKE・相対圧は2015年に「臨床的妥当性が未確立」とされました。2026年の後処理推奨も、これらを日常のルーチンではないとして対象外に置いています。

4D Flow MRI からは多くの指標が計算できます。しかし計算できることは、使えることを意味しません。

Consensus statement が推奨する臨床指標と研究用指標の分類

2015年の初版の合意声明1は、4D Flow から得られる指標を二つの表に振り分けました。

区分 指標
臨床応用として推奨 流量、逆流分画、ピーク流速、Qp/Qs
研究段階(臨床的妥当性が未確立) 壁面せん断応力、脈波伝播速度、乱流運動エネルギー、相対圧、流入コンパートメント

後者に置いた理由も三つ挙げられています。空間分解能に依存すること、実際の値との関係が不明であること、そして乱流を考慮していないことです。いずれも 1-3第1章と 3-4第3章で見てきた内容と一致します。

これが臨床応用と研究段階の線引きの初出です。当社が扱う指標の多くは、後者の側にあります。

2026年の後処理推奨における同じ区分

先天性心疾患の 4D Flow 後処理推奨2は、14施設が「理想の解析ソフト」に求める要件を列挙した文書です。そこでは壁面せん断応力・渦度・運動エネルギー・エネルギー損失・圧力マッピング・ヘリシティが「現時点で日常のルーチンではない」として対象外に置かれています。

読み方に注意が要ります。この文書が述べているのは、いま何が日常診療のルーチンかという現状です。2015年版のように臨床的妥当性を判定したものではありません。したがって「臨床的妥当性が未確立であることを再確認した」とまでは読めません。それでも、11年を経ても日常のルーチンに入っていないという事実は、線引きの位置を知る材料になります。

同時にこの文書は、これらが研究から臨床へ移る可能性を認め、解析ソフトは新しいモジュールを追加できる設計であるべきだとも述べています。門は閉じていないが、いまは外側にある、という位置づけです。

日常診療における後処理の律速

先天性心疾患の後処理推奨には、もう一つ重要な現場認識があります。4D Flow を日常診療に乗せるときのボトルネックは、撮像ではなく後処理です。

撮れるようになっても、解析の手間と再現性が障壁として残っています。だからこの文書は、施設の手順ではなくソフトの要件を定めています。ソフト選定やベンダーとの交渉に、そのまま使えるチェックリストです。

引用すべき撮像パラメータの版

初版を引くときの注意が一つあります。2015年版の撮像パラメータ(空間分解能 2.5 mm³ 未満、時間分解能 40 ms 未満など)は、2023年版3で更新されています。初版の数値を現行値として引かないでください。

初版を読む価値は、撮像条件ではなく、この線引きの初出であることと、線引きの理由が書かれていることにあります。その理由は、いま顧客と条件を詰めるときの論点と重なります。

空間分解能への依存の由来

三つの理由のうち、最初に挙がっていたのが空間分解能への依存でした。では、どの指標がどれだけ分解能に依存するのでしょうか。4-4次の記事では、その判断基準が一つの原理にまとまることを見ます。

この記事で出てきた言葉

臨床応用と研究段階の線引き
国際合意声明が指標を二分した区分。流量や逆流分画は臨床応用、WSS・TKE・相対圧は臨床的妥当性が未確立の研究段階に置かれている。

引用文献(3 本)

  1. 1

    Dyverfeldt P, Bissell M, Barker AJ ほか. 4D flow cardiovascular magnetic resonance consensus statement. Journal of Cardiovascular Magnetic Resonance. 2015.↩

    WSS・TKE・相対圧を「研究段階」に置いた最初の国際合意 線引きは2026年も現役

  2. 2

    Garcia J, Geiger J, Christopher A ほか. 4D flow cardiac magnetic resonance postprocessing in congenital heart disease: SCMR FLIICR workgroup recommendations. Journal of Cardiovascular Magnetic Resonance. 2026.↩

    先天性心疾患の 4D Flow、ボトルネックは撮像でなく後処理 14施設がソフト要件を列挙

  3. 3

    Bissell MM, Raimondi F, Ait Ali L ほか. 4D Flow cardiovascular magnetic resonance consensus statement: 2023 update. Journal of Cardiovascular Magnetic Resonance. 2023.↩

    4D Flow、使える状態の条件 成人 2 mm³・30 ms、導入時は10例で流量差5%以内

ここで答えていない問い

  • 研究段階に置かれた指標は、どういう理由でそこに置かれたのか。

第4章「速度場を得る三つの計測・解析手法」より 最終更新 2026-09-08