4-1 速度場を得る三つの計測・解析手法

4D Flow MRI の撮像条件と品質保証

心周期にわたる3次元の速度場を一度に取得します。成人の血管で 2 mm³、定量用の時間分解能は 30 ms です。導入時は10例で 2D と比較し流量差5%以内が目安です。

4D Flow MRI は、心周期にわたる3次元の血流速度場を一度の撮像で取得する手法です。時間分解3次元位相コントラスト MRI という名のとおり、位相の差から速度を読み取ります。

強みは「撮ってから決められる」ことです。撮像時に断面を決めて流量を測る従来の 2D 位相コントラストと違い、後から任意の断面を置いて流量を出し、渦を可視化し、壁面せん断応力を計算できます。撮り直しが要りません。

実際に得られるのは、各ボクセルに3方向の速度が入った、心周期ぶんの3次元データです。下では、その速度の大きさを立体で表示しています。

健常ボランティアの大動脈の流速の大きさ。しきい値と不透明度を動かすと、速い流れがどこを通っているかが見える。この速度場が、以降の章で扱う指標すべての出発点になる。

当社が取得した健常ボランティア1名の 4D Flow MRI を iTFlow で可視化したものです。患者の診療データではありません。

壁面せん断応力も、エネルギー損失も、相対圧も、この速度場を微分したり積分したりして得た二次的な量です。 だから第4章の残りで見るように、速度場の質が派生量の質の上限を決めます。

例外が一つあります。乱流運動エネルギー(TKE)は速度ベクトルからは作れません。 各流れエンコード方向の信号強度からボクセル内の速度分布を推定して求めます。速度場から導く量とは、依存する情報が違います。

時間分解能と総撮像時間の関係式

「なぜそんなに時間がかかるのか」には答えがあります。Markl らの総説1は、時間分解能を 4×TR×NSeg、総撮像時間を NyNz/NSeg×TECG という形で書いています。分解能を上げれば、その分だけ時間が伸びる関係が式として書かれています。

大動脈や肺動脈での典型は、TR 5〜6 ms、2 mm 等方、VENC 100〜150 cm/s、並列イメージング R=2、ナビゲータ効率50〜80% という組み合わせです。これで 15〜20分、時間分解能 40〜50 ms です。

VENC には相反があります。速度ノイズは VENC に比例し、SNR に反比例します。エイリアシングを避けるには高く、ノイズを抑えるには低く置きたくなります。広い範囲に多様な血管が含まれる撮像では、単一の最適 VENC は存在しません。

Consensus statement が示す空間・時間分解能と VENC

2023年の国際合意声明2に具体的な数値があります。

空間分解能は、成人の血管で 2 mm³(上限 2.5 mm³)、小児の血管で 1.5 mm³(上限 2 mm³)、新生児で 0.75〜1 mm³(上限 1.5 mm³)。全心臓を撮る場合は成人 2.5 mm³、小児 2 mm³ です。ここで言う分解能は取得分解能で、再構成後の値を性能として報告してはいけません。

時間分解能は、定量用途で 30 ms、上限 50 ms です。可視化だけならこれより粗くても構いません。

VENC(速度エンコード)は、想定される最大流速の +25% 以内に置きます。部位ごとの目安は大血管 150、静脈 50〜80、心腔内 100〜150 cm/s です。低すぎると折り返し(エイリアシング)が出て速度が読めなくなり、高すぎると遅い流れの精度が落ちます。

導入時と日常の品質保証手順

この声明がもっとも実務に効くのは、品質保証の節です。

導入時:健常者と患者を合わせて10例で 2D 位相コントラストと比較し、流量差5%以内を満たします。読影者内・読影者間の差も、1週間以上あけて再解析して5%以内に収めます。上行大動脈に2〜4面を置いたときの差も5%未満とします。

日常:4-2症例ごとに質量保存の整合性を1組は確認します。左右肺動脈の和が肺動脈幹に一致するか、上大静脈と下行大動脈の和が上行大動脈に一致するか、といった組み合わせです。

やり直しの基準:逆流量が手法間で 15 mL または 10% を超えて食い違ったら、解析を見直します。

導入初期は 2D と 4D Flow を併記し、両チームが確信を持てるまで併用する、という推奨も付いています。

エイリアシングの目視確認

もう一つ実務的な指摘があります。収縮期と拡張期のピークで、3方向すべてのエイリアシングを目視で確認し、補正できない領域は流量解析から外します。

自動補正に任せきりにできない部分が残っている、ということです。

臨床応用と研究段階の区分

撮り方の数値は揃いました。しかし「撮れる」ことと「臨床で使える」ことは別です。4-3次の記事で、2015年の初版の合意声明3が指標をどう二分したかを見ます。当社が扱う指標の多くは、境界の向こう側にあります。

この記事で出てきた言葉

4D Flow MRI
心周期にわたる3次元の血流速度場を一度の撮像で取得する時間分解3次元位相コントラスト MRI。
VENC
位相コントラスト MRI で折り返さずに測れる最大流速の設定値。低すぎると折り返し、高すぎると遅い流れの精度が落ちる。
空間分解能
1ボクセルの大きさ。壁際の速度勾配を解像できるかを決めるため、WSS のような微分量の精度を直接左右する。

引用文献(3 本)

  1. 1

    Markl M, Frydrychowicz A, Kozerke S ほか. 4D flow MRI. Journal of Magnetic Resonance Imaging. 2012.↩

    4D Flow の標準は2mm等方・VENC 100〜150cm/s 撮像は15〜20分

  2. 2

    Bissell MM, Raimondi F, Ait Ali L ほか. 4D Flow cardiovascular magnetic resonance consensus statement: 2023 update. Journal of Cardiovascular Magnetic Resonance. 2023.↩

    4D Flow、使える状態の条件 成人 2 mm³・30 ms、導入時は10例で流量差5%以内

  3. 3

    Dyverfeldt P, Bissell M, Barker AJ ほか. 4D flow cardiovascular magnetic resonance consensus statement. Journal of Cardiovascular Magnetic Resonance. 2015.↩

    WSS・TKE・相対圧を「研究段階」に置いた最初の国際合意 線引きは2026年も現役

ここで答えていない問い

  • 撮れる指標のうち、臨床で使えるものと研究段階のものの境界はどこか。

第4章「速度場を得る三つの計測・解析手法」より 最終更新 2026-09-07