3-2 計算した壁面せん断応力は、血管壁の組織変化と対応するのか

腹部大動脈拡張部の WSS と OSI の実測値

腹部大動脈の拡張部では収縮中期の WSS が 0.20 Pa 対 0.68 Pa、OSI が 0.093 対 0.041 です。3分の1以下に下がり、2倍以上に上がります。

3-1前の記事で、壁面せん断応力の高低が壁の組織と対応することを確かめました。では、疾患のある部位では値がどれだけ動くのでしょうか。

拡張部と非拡張部の同一被験者内比較

腹部大動脈の 4D Flow による実測1は、拡張した部位と、同じ被験者の上流にある非拡張部を比較しました。前の記事と同じく、被験者間のばらつきを排除する設計です。

収縮中期の値は次のとおりです。

壁面せん断応力が拡張部 0.20 Pa 対 非拡張部 0.68 Pa(p < 0.0001)。振動せん断指数が 0.093 対 0.041(p = 0.013)。

3分の1以下に下がり、2倍以上に上がっています。1-6第1章で見た「低い TAWSS と高い OSI」の組み合わせが、そのまま数値として出ています。径比との相関は、WSS の振幅のほうが強い(r = −0.694)という結果でした。

腹部大動脈の WSS の桁

この値は、自分の解析結果が妥当な範囲にあるかの一次判定に使えます。腹部大動脈で 0.2〜0.7 Pa、つまり 2〜7 dyn/cm² の桁になります。1-4第1章で見た動脈の生理的範囲(10〜70 dyn/cm²)より低めですが、腹部大動脈は流量に対して径が大きく、拍動の逆流成分も大きい部位です。

値に付随する撮像条件と粘度仮定

一方で、この値をそのまま他施設と比べられるわけではありません。著者自身が二つの条件を挙げています。

2 mm のパーティション厚では WSS が過小評価されえます。 1-3第1章で触れた、粗い箱で急な傾きを測る問題です。空間微分を含む指標の分解能依存を整理した総説2が、この型の過小評価をまとめています。

血液粘度に 0.00384 Pa·s を仮定しています。 測定値ではありません。粘度は壁面せん断応力に直接かかる係数なので、別の値を仮定した研究とは絶対値が合いません。

つまり 0.20 Pa という数字は、この撮像条件とこの粘度仮定のもとでの 0.20 Pa です。この留保は 3-4この章の最後の記事で決定的になります。

引用文献(2 本)

  1. 1

    Takehara Y, Isoda H, Takahashi M ほか. Abnormal Flow Dynamics Result in Low Wall Shear Stress and High Oscillatory Shear Index in Abdominal Aortic Dilatation: Initial in vivo Assessment with 4D-flow MRI. Magnetic Resonance in Medical Sciences. 2020.↩

    腹部大動脈の拡張部、WSS は3分の1で OSI は2倍 4D Flow による実測値

  2. 2

    Itatani K, Sekine T, Yamagishi M ほか. Hemodynamic Parameters for Cardiovascular System in 4D Flow MRI: Mathematical Definition and Clinical Applications. Magnetic Resonance in Medical Sciences. 2022.↩

    4D Flow のエネルギー損失、最大80%の過小評価 空間微分を含む指標は分解能に弱く

ここで答えていない問い

  • この値を、別の施設で測った値と比べてよいのか。

第3章「計算した壁面せん断応力は、血管壁の組織変化と対応するのか」より 最終更新 2026-09-07