6-1 同じ症例を別の施設が解析したら、同じ値が出るのか
国際チャレンジによる解析者間ばらつきの定量
同一形状でも破裂部位の予測は6箇所に分散しました。画像から任せると WSS の変動係数は48% に達します。ただし母血管で正規化すると18%に下がります。
「文献値と自分の結果が合わない」という相談に、最も直接的な根拠を与える研究があります。設計は単純で、同じデータを多数のグループに配り、返ってきた結果を比べます。
形状を配布した2013年のチャレンジ
2013年の CFD Rupture Challenge1では、15か国26グループが同一の2症例を盲検で解析しました。形状データは配られ、解析条件は各グループが自由に決めます。
破裂した側がどちらかという判定は、21/26 が正解しました。ここは揃っています。
ところが、破裂した部位の予測は6箇所に散り、一致しませんでした。
ばらつきの主因としての境界条件
散らばりの原因は、はっきり特定できます。参加グループが自由に選んだ流入流量は 0.9〜11.36 mL/s と13倍の開きがあり、実測値(1.76 / 2.5 mL/s)から大きく外れたものが含まれていました。入口流速 10 m/s、Reynolds 数 1 という、明らかに非現実的な設定も提出されています。
つまり、ばらつきの主因はソルバーの差ではなく境界条件の差です。この解釈は、条件を指定した Phase II でほぼ同一の流れ場が得られたことで裏づけられています。
境界条件——入口・出口・壁に何を与えるか——は、数値解析で人が決めなければならない部分です。形状は画像から来ますが、流量は来ません。ここが自由なままだと、同じ形状から違う流れが出ます。
画像から配布した2015年のチャレンジ
現実の受託解析は、もっと手前から始まります。形状ではなく画像が渡されるからです。
2015年の International Aneurysm CFD Challenge2は、26チームに DICOM 画像だけを配りました。形状抽出から任せる設定です。
結果、瘤内平均の壁面せん断応力のばらつきは変動係数48%、症例によっては60%に達しました。1つの症例の中でも、同じチームが自動抽出と手動抽出を比べると値が45%違います。設定流量そのものも変動係数23%で散り、血液粘度は 3.5 と 4.0 cPoise に二分され、それだけで13%の差を生んでいました。
正規化と条件統一によるばらつきの低減
この研究の価値は、ばらつきを示したことではなく、減らし方を示したことにあります。
母血管の壁面せん断応力で正規化すると、変動係数は48%から18%へ下がります。最大 WSS は 48% から 22% へ、低ずり面積は 63% から 30% へ下がります。いずれも2〜3分の1です。
下の図で、縮み方の大きさを見てください。
同じ研究が挙げている他の推奨も具体的です。血液物性を 3.7 cPoise・1.06 g/cm³ に統一します。形状は内頸動脈まで含めて抽出します(中大脳動脈で切ると速度分布が発達しません)。設定流量を文献範囲(1.39〜3.47 mL/s、中央値約 2.43)と照合します。
二つのチャレンジの設計と結果を並べると、どこで差がつくのかが見えます。
| 2013年 CFD Rupture Challenge | 2015年 International Aneurysm CFD Challenge | |
|---|---|---|
| 配ったもの | 形状データ | DICOM 画像 |
| チームに委ねた範囲 | 解析条件 | 形状抽出から解析条件まで |
| 参加 | 15か国26グループ | 26チーム |
| 揃った結果 | 破裂側の判定 21/26 | — |
| 揃わなかった結果 | 破裂部位が6箇所に分散 | 瘤内平均 WSS が変動係数48% |
| ばらつきの主因 | 境界条件(流入流量が13倍の開き) | 形状抽出と流入条件 |
| 示された対策 | 条件を指定すれば流れ場は一致 | 母血管で正規化すると48%→18% |
ばらつきは避けられませんが、減らし方は分かっています。 これが 3-4第3章で触れた正規化の根拠です。6-2次の記事では、CFD と MRI のあいだの食い違いに進みます。
この記事で出てきた言葉
- 境界条件
- 数値解析で入口・出口・壁に与える条件。流量や圧の与え方が結果を大きく変えるため、ばらつきの主因になりやすい。
引用文献(2 本)
- 1
- 2
ここで答えていない問い
- MRI と CFD で値が数倍ちがう原因は、境界条件なのか分解能なのか。
第6章「同じ症例を別の施設が解析したら、同じ値が出るのか」より 最終更新 2026-09-07