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A HISTORY OF 4D FLOW MRI / 1955 — 2026

血流を撮る。
4D Flow MRI 全史

1960年、ある物理学者は核磁気共鳴で海水の流れを測りました。流れを磁気共鳴で測る発想は位相コントラスト法を経て、心臓と大血管の中の血流を3次元・3方向・時間分解で記録する 4D Flow MRI に育ちました。1960年から2026年までの66年を、論文を根拠にたどります。

0速さ(背景は位相画像を模した表示)
PART 1

年代順にたどる 1955 →

流れを磁気共鳴で測る発想から、4D Flow が臨床研究に使われるまでを、古い順に5つの章で読みます。

01前史1955–1977

最初に磁気共鳴で測られた流れは、海水だった

血液より先に、海でした。スピンエコーの発見者 Erwin Hahn は1960年、核磁気共鳴の信号で海水の動きを検出できることを短報にしています。前年の1959年には、Singer がマウスの尾の血流を NMR で測りました。

拍動する血流を数式で扱う理論は、さらに前の1955年に Womersley が示しています。1973年に Lauterbur が磁場勾配で信号に位置の情報を持たせる方法を示し、NMR は画像(MRI)になりました。流れを測る発想と画像を作る技術が、ここでそろいます。

1973年 Lauterbur が NMR で最初の画像を作った原理です。磁場勾配の向きを変えて信号の分布を集め、断面像を組み立てました(Lauterbur 1973 をもとにした模式図)。
02位相コントラスト法1982–1993

動くスピンは「位相」に速度を書き残す

磁場勾配の中を動く水素の原子核は、止まっている原子核とは違う角度だけ回ります。Moran は1982年、回転の角度(位相)に流速を符号化できることを理論的に示しました。

正負対称の勾配パルスを2回かけると、止まった組織の位相は打ち消し合い、動いた組織にだけ速度に比例した位相が残ります。位相は −180°〜+180° の範囲でしか表せないため、設定した最大速度(VENC)を超える流れは反対側に折り返して表示されます。VENC を超えた流速が反転して見える現象を、折り返し(エイリアシング)と呼びます。下の図で、血管の断面の位相画像を作れます。

1993年 Kilner らが3方向の位相コントラスト・シネ MR で示した、健常者の大動脈弓の右回りのらせん流と逆流です(Kilner 1993 をもとにした模式図)。
φ = π · v / VENC

φ は位相(ラジアン)、v は流速、VENC は速度エンコード値です。−π〜+π を黒〜白の階調で表示しています

最大流速 vmax
VENC
雑音

血管の中心ほど速い放物線状の流れ(ポアズイユ流)を仮定した模式図です。VENC を下げると中心から折り返しが始まり、VENC を上げすぎると速度の分解能が下がって雑音が目立ちます。

原理の出典: Moran 1982(PMID 6927206)、Bryant 1984(PMID 6736356)、Nayler 1986(PMID 3528245)
034D の誕生1996–2012

3次元 × 3方向 × 時間。「4D」が意味するもの

測定は、2D の断面で1方向の速度を測る方法から、撮像範囲全体で3方向の速度を心拍に沿って記録する方法へ進みました。1996年に Wigström らが時間分解3D 位相コントラストを報告し、2000年には Kilner らが心臓の中の血流が左右非対称に向きを変える様子を Nature に発表しました。

2003〜2007年に Markl らが胸部大動脈全体を1回の撮像で覆う方法を確立し、2012年の総説の題名に「4D flow MRI」を掲げました。呼び名が定まった2012年前後から、論文の件数が急に増えています(第7章)。

2004年ごろ 胸部大動脈全体の流れを1回の撮像で捉え、流線で描く表示が報告されました(Markl 2004)。この図は、当社の健常ボランティアの 4D Flow から iTFlow で計算した流線を、同じ見方で描き直したものです。論文の図ではありません。

4D Flow の1回の検査で集まる画像

0枚画像の枚数
0MBデータ容量

1断面 160×160 画素・16 bit、40スライス、心時相20コマ、速度の符号化4回(参照+3方向、Pelc 1991 の4点法)とした説明用の例です。特定の装置の条件ではありません。

04撮影時間との戦い1999–2026

撮影に何十分もかかる検査を、どう縮めたか

3次元の速度を時間分解で集めると、データの個数が膨大になります。4D Flow の歴史の半分は、取得するデータを減らしても画像を復元する工夫の歴史でした。

複数の受信コイルを使う並列撮像(SENSE, 1999)、時間方向の相関を使う k-t BLAST / k-t SENSE(2003)、放射状に間引く PC VIPR(2005)、疎性を使う圧縮センシング(2007)と続き、2018〜2019年には k-t 法や圧縮センシングで胸部大動脈の 4D Flow を約2分で撮る方法が報告されました。2020年以降は深層学習による再構成が加わっています。一方、2025〜2026年の臨床研究の撮像時間は今も10〜12分ほどです。

1999〜2007年 画像の元になる周波数のデータ(k 空間)の集め方の違いです(模式図)。データを間引くほど撮像は短くなり、足りない分は複数のコイルの感度や画像の性質を使った計算で補います。

高速化の手法が題名・要旨に出てくる 4D Flow 論文の件数

並列撮像・k-t 法圧縮センシング深層学習
PubMed esearch の件数(2026-10-22 取得)。2026年は部分年のため除外。検索式は pubmed_counts.json に記録

胸部大動脈などの 4D Flow の撮像時間(論文の要旨に書かれた値)

色付きの点は高速化の手法を示した研究での撮像時間、灰色の点は同じ論文の従来法や、臨床研究での通常の撮像時間です。縦の線は幅のある値を表します。点にカーソルを合わせると条件と出典が出ます。

並列撮像・k-t 法圧縮センシング従来法・臨床研究での撮像
PMID 17279504, 21235751, 21990271, 22923717, 24834414, 26257141, 28266062, 31201339, 30803006, 33107141, 39674984, 42333994 の要旨。撮像時間は撮像範囲、分解能、心拍数、呼吸同期の方法で大きく変わるため、論文どうしの単純な比較はできません。深層学習による再構成は、撮像時間を書いた要旨が見つからなかったため点にしていません
05臨床へ2007–2026

頭から胎児まで、4D Flow はどこで何を測っているのか

4D Flow は、心臓と大動脈の検査として始まり、いまは脳の血管、首の動脈、肝臓と腸、移植した腎臓、脳脊髄液、お腹の中の赤ちゃんまで広がっています。どの応用も、1回の撮像で集めた速さの分布から「量る」「比べる」「形を見る」「見えない量を計算する」のどれかを行っています。図を眺めて、自分の領域で何が測れそうかを探してみてください。

体のどこで使われているか

円の大きさは、その領域の語を題名・要旨に含む 4D Flow 論文の件数(PubMed、2026年10月26日時点)。1本が複数の領域に数えられます。円を押すと、その領域の事例へ移ります

応用を生む4つの型

下の事例は、どれもこの4つの型の組み合わせです。研究を計画するときは、型を一つ選び、測る場所と比べる相手を決めると形になります

深掘り:二尖弁の大動脈はなぜ膨らむのか

大動脈弁の弁尖が2枚しかない二尖弁では、上行大動脈が拡大しやすいことが知られています。原因が遺伝なのか流れなのかは、長く議論されてきました。4D Flow は、拡大の原因を流れの側から調べる研究を10年かけて積み上げました。

2010〜2015年 二尖弁では弁を通る血流が偏り、上行大動脈の外側の壁に強いせん断がかかります(Hope 2010、Barker 2012 をもとにした模式図)。
Hope 2010(PMID 20308444)、Barker 2012(PMID 22730420)、Bissell 2013(PMID 23771987)、Mahadevia 2014(PMID 24345403)、Guzzardi 2015(PMID 26293758)
PART 2

テーマ別に見る

ここからは、指標・論文の数・計算流体力学・日本・当社といったテーマごとに、年代をまたいでたどります。各章は年代を少しさかのぼって始まります。

06血行力学指標1985–2022

速度の地図から、血管壁にかかる力とエネルギーを読む

速度を測るだけなら 2D でも足ります。4D Flow の価値は、3次元の速度場から「血管壁をこする力」「流れが失うエネルギー」「乱れの強さ」を計算できることにあります。

iTFlow で計算した血行力学指標を3次元で見る

当社の健常ボランティア1名の 4D Flow MRI(第10章と同じデータ)を、iTFlow でそのまま計算して表示しています。壁の指標は画像をドラッグすると回り、体積の指標はビューアの中でドラッグして回せます。

iTFlow で 2026-10-22 に計算・書き出し。壁の指標の色の範囲は iTFlow の既定値です。エネルギー損失と渦度は研究用の版の機能で、2023年に FDA 510(k) のクリアランスを受けた版には含まれていません

指標ごとの 4D Flow 論文の件数(年別)

色が明るいほど件数が多いことを表します。セルにカーソルを合わせると件数が出ます。

PubMed esearch の件数。略語(WSS, TKE, PWV, CFD)を検索語に含むため、誤検出を含み得ます
07論文の推移1985–2025

呼び名が定まり、合意声明が出て、年間の論文は15倍になった

PubMed で「4D Flow」とその別名を題名・要旨に含む論文は、2010年の18件から2021年の267件へ増えました。2021年以降は年250件前後で、伸びは止まりつつあります。

4D Flow MRI動脈の数値流体解析(CFD)位相コントラスト MRI 全般
PubMed esearch の件数([tiab] 検索、[dp] で年を区切り、2026-10-22 取得)。2026年は部分年のため除外。4D Flow の検索式は「4D flow」「time-resolved three-dimensional phase-contrast」などの別名を OR で結合
08もう一つの系譜1955–2020

「測る」4D Flow と「計算する」CFD は、どこで交わったか

血流を知る方法は、撮るだけではありません。医用画像から血管の形を作り、流体の方程式を解く数値流体解析(CFD)は、4D Flow と並行して育ちました。CFD の論文の件数は今も増え続け、2025年には 4D Flow の約1.4倍です。

測る系譜と計算する系譜、その交わり

上段は磁気共鳴で流れを測る系譜、下段は流体の方程式を解く系譜、中段は両者が共有した理論・指標と、両者を突き合わせた研究です。論文を押すと、下に内容と「どう交わったか」が開きます。線は考え方のつながりの目安で、引用関係を表すものではありません。1980年より前は横軸を詰めています。

表示の大きさ 拡大したときは横にスクロールします
各論文の PMID / DOI は末尾の文献一覧を参照
健常成人の大動脈の流線と断面の速度分布を、4D Flow MRI と3種類の CFD で比べた図
健常成人の収縮期ピークの流線と断面の速度分布を、4D Flow MRI(左)と3種類の CFD で比べた図です。CFD 社の宮崎・板谷らが CFD を実測で検証しました。出典: Miyazaki S, Itatani K, et al. Heart Vessels 2017, Fig. 2, PMID 28444501(CC BY 4.0)

血流を知る3つの方法の違い

4D Flow MRI数値流体解析(CFD)心エコーの VFM
速度の求め方撮像して測る流体の方程式を解いて計算するドプラ速度と壁の動きから再構成する
必要なものMRI 装置と撮像時間血管の形状と境界条件(流入・流出の条件)心エコー装置
得意なこと生体の実際の流れを3方向・時間分解で記録細かい格子での壁面せん断応力や圧力、手術前の仮想的な比較ベッドサイドで繰り返し、心室内の流れを観察
弱いところ空間分解能と撮像時間、速度の雑音仮定した条件に結果が左右される2次元の断面に限られる
代表的な論文Markl 2012(PMID 23090914)Steinman 2002(PMID 12086000)Garcia 2010(PMID 20562044)

CFD の結果を 4D Flow の実測で検証した研究として、日本からは CFD 社の宮崎らの報告があります(Miyazaki 2017, PMID 28444501)。物理法則を組み込んだ深層学習(Raissi 2020, Science)は、計算と測定の境目をさらに薄くしています。

09日本の立ち位置2006–2026

日本は世界5位前後。ただし国際合意声明に日本人の名前はない

日本の所属を含む 4D Flow 論文は PubMed で約200件あり、国別では米国・ドイツ・オランダ・英国に次ぐ位置にいます。最初期は浜松医科大学の礒田らが Markl と共著した2006〜2007年の論文です。

国別の 4D Flow 論文の件数(通算)

所属に国名を含む論文を数えています。1本が複数の国に数えられます

PubMed [ad] 検索。米国・英国は表記ゆれを合算。合意声明は PMID 26257141, 37474977

日本の所属を含む 4D Flow 論文(年別)

別名(time-resolved 3D PC、3D cine PC など)を含む検索式

PubMed。2014年より前は筆頭著者の所属しか索引されないことが多く、下限の件数です。2026年は部分年

論文の件数が多い国内の施設

所属の文字列で数えた概数

日本の研究コミュニティ

10iTFlow で見る2026

健常者の左心室と大動脈を流れる、1心拍の血流

iTFlow が保存した 4D Flow MRI の速度場から、粒子 2,460個が1心拍のあいだに描く軌跡(パスライン)を計算し、3次元で再生しています。線の先端が粒子のいまの位置で、色は速さ(m/s)です。ドラッグで回転、ホイールで拡大できます。

表示
遅い部分を隠す: 0.00 m/s
速さ(m/s)
00.651.3
ドラッグ: 回転 / ホイール: 拡大 / 右ドラッグ: 移動

データ: 当社が取得した健常ボランティア1名の大動脈 4D Flow MRI。患者の診療データではありません。パスラインは、iTFlow で保存した速度場(14時相、630 ms)から、マスク内に置いた粒子を RK4 法で 2 ms 刻みに追跡したものです(空間は3重線形、時間は周期的な線形補間、マスクの外に出た粒子は止めています)。表面は左心室と大動脈を囲んだ解析用のマスクから作っています。

114D Flow を支えた人たち1950–2026

物理学者、技術者、外科医、放射線科医。血流を撮る技術を作った26人

4D Flow MRI は、一人の発明ではありません。核磁気共鳴の物理を見つけた人、それを画像にした人、流速を位相に書き込む方法を考えた人、3次元で時間を追って撮る方法を組み上げた人、病気の理解に使った人がいます。その仕事が順に受け渡されて、いまの検査になりました。

ここでは、論文や所属機関の公開資料で確かめられた経歴と仕事をもとに、26人を時代順に紹介します。カードを押すと、経歴、主な仕事、人柄が伝わる逸話が開きます。顔写真は、利用条件を確かめられた写真だけを載せています。

出典: PubMed、Crossref、ノーベル財団、各大学・病院の公開プロフィールと追悼記事、researchmap(各カードに出典を記載)。資料が一つしかない事柄や、資料どうしで食い違う事柄は載せていません
12これから2026–2040

4D Flow が診療を変える日 — 2040年までの12の予測

ここから先は予測です。66年かけて「撮れる」ようになった血流が、これから診療の何を変えるのかを、臨床の場面を中心に並べました。論文の件数と、ここまでの章で見た研究を根拠にしていますが、確度の低い大胆な予測も入れています。

確度 高すでに起きている変化の延長 確度 中傾向はあるが条件しだい 確度 低根拠が少ない推測

予測の年表 2026–2040

帯の長さは、起こりそうな時期の幅です。帯を押すと、下に根拠が開きます。

論文の件数はどこまで伸びるか

実線は PubMed の年別件数(2025年まで)。色の帯は、2021〜2025年の横ばいが続く場合と、2016〜2025年の伸びが続く場合の間です

PubMed esearch の件数(2026-10-22 取得)。将来の値は単純な直線の当てはめで、予測の目安です

増えている話題

題名・要旨に語を含む論文の年別件数。右端の薄い棒は2026年(10月22日まで)です

PubMed esearch の件数(2026-10-22 取得)。検索式は文献一覧の前の注記を参照

まだ答えの出ていない問い

?

撮像と計算の境界は消えるのか

物理法則を組み込んだ深層学習は、粗く雑音の多い速度場から圧力や細かい流れを推定します。測定値と計算値をどう区別して報告するべきでしょうか。

?

指標の正常値は決められるのか

壁面せん断応力やエネルギー損失は、撮像条件と解析ソフトで数値が変わります。2023年の合意声明は報告すべき項目のチェックリストを示しましたが、施設間で比べられる基準値はまだ限られています。

?

どの病気で治療方針を変えるのか

二尖弁の大動脈、フォンタン循環、心房細動の左房では、流れの異常が多く示されました。しかし、手術の時期や術式の判断に使えるだけの前向きの根拠はまだ少数です。

?

日本は標準づくりに加われるのか

論文の件数で世界5位前後にいる一方、2015年と2023年の国際合意声明の著者に日本の所属はありません。国内の研究会と総説の蓄積を、国際的な標準にどうつなげるかが問われています。

REF文献一覧

本稿で参照した論文

すべて PubMed(一部は Crossref)で書誌を確認しています。被引用数は OpenAlex の値(2026-10-22 取得)です。